バレンタインデーに経験した話

今日はバレンタインデー。

令和のバレンタインデーともなると、男子学生たちがソワソワしながら学校に行くということもなくなっていそうだ。

ちなみに俺はバレンタインデーにクラスの女子からチョコを貰ったことは一度もなかった。

ただ、一度だけ貰いそうになったことはある。

あれは小学生の高学年のころ。

当時好きな女の子がいたのだが、極度の恥ずかしがり&どこまでも素直でない性格の俺は、当然その子と上手く喋れるわけがなく、あろうことかゴリラなどという意味不明なあだ名をつけてちょっかいを出すことで交流を図ろうとしていた。

ゴリラと呼ばれて喜ぶ女子などどこに居ようか。

それでも俺は興味を引きたいがために、毎日必死にその子をゴリラ呼ばわりしていた。

しかし、そんな日々の努力が実ったのだろうか。大方の予想に反して、その子が俺のことを好いているという噂が流れるようになる。

それからというもの、俺はその噂が本当なのかどうかが知りたすぎて何も手につかなくなった。

ゴリラ呼ばわりもどこかぎこちなくなり、スムーズな交流ができなくなった。(もともとスムーズに交流していたわけではないが)

そんなこんなで迎えたバレンタインデー。

ソワソワが止まらない。ソワソワしすぎてソワソワが文字となって口から出てしまっている気がする。「胸さわぎを頼むよ」とはまさにこのこと。

その日はもうバッチバチに視線が合った。向こうも俺の行動を気にしているのが分かる。

1時間目が終わり、2時間目が終わり、給食の時間が終わっていく中、視線は合いまくった。

(視線もいいけどそろそろチョコが欲しい。もう昼休みだ)

視線もまあまあ合った結果、ソワソワも確信に変わっていた。

そして、ついにそのときがやってくる。

ホームルームが終わり、放課後に突入した瞬間、肩をたたかれた。後ろの席の女子だった。

嫌な予感がした。なぜならその女子はデリカシーがなく、俺の苦手なタイプの女子だったからだ。

そして、その予感は的中する。

「はい、これ〇〇ちゃんから」バレンタインデー

「〇〇ちゃん」とは俺の好きな子のことだ。〇〇ちゃんは直接渡すのが恥ずかしいからと、その女子にチョコを託したらしい。

なぜよりによってその女子に託したんだ。

案の定、デリカシーの欠片もない渡し方をしてくるではないか。

まずタイミング。ホームルームが終わった直後ってどんなタイミングだよ。みんな見てるじゃないか。

そもそもこういうのは体育館の裏とかに呼び出してこっそり渡すもんだろ。俺のことはもちろん、お前を頼ってきたあの子の気持ちも考えてやってくれ。

あと、声の大きさ。「はい、これ〇〇ちゃんから」がデカ過ぎるぞ。

ホームルームが終わった直後過ぎて、みんなのわちゃわちゃタイムもまだ始まっていないからそこら中に響き渡っている。おかげでクラスの全員から視線を向けられているではないか。

そんな空間におれが耐えられるわけがない。思春期の俺をナメてもらっちゃ困る。

その結果がこうだ。

バレンタインデー バレンタインデー バレンタインデー

何だこの誰も幸せにならない状況は。

とにかくこのデリカシーのない女子が全部悪い。

そういうことにして俺はランドセルを背負い、駆け足で家路についた。

あそこで受け取ろうもんならクラスのみんなに冷やかされてしまう。それがあまりにも恐ろしくて、そうする他になかった。

バレンタインデー今一度振り返ってみよう。今度は俺の主観で。やはり耐えられない

しかし、ここで終わる俺ではない。全てはきちんと策略を立てながらの行動だった。

まず、恥ずかしさから逃れるにはここから立ち去るしかない。なので、直ちに帰ろう。そして帰宅後にもう一度この場所に戻ってくる。チョコレートはきっと机の中か下駄箱に入れてくれているはずだから、そのときに取り出せばいい。俺の家は遠く、片道30分はかかる。つまり往復1時間。それだけあればここにいる人たちはみんないなくなっているはずだ。そうなれば、誰の目も気にする必要はない。

気がつくと俺は息を切らして走っていた。時間の計算が合わなくなるが、のんびり歩いてなどいられなかった。

家につき、玄関にランドセルを投げ、そのままUターンする。そして、ひたすら走る。

その途中、俺の好きなあの子とすれ違った。

心臓がもげるかと思った。

かなり落ち込んでいるのが遠目に見てもわかる。

すれ違う瞬間は生きた心地がしなかった。

学校に着いたのは何時ぐらいだっただろう。2月だったので日も暮れかけていたと思う。

まず、下駄箱を確認したが、ここには何もなかった。

続いて職員室へ。教室は施錠されているから鍵を取りに行かなければならない。

職員室へ入るなり担任に声をかけられた。

「おー、どしたんなー」

「忘れ物しちゃいました」

「ほーん」

ワケを知ってか知らずか、よく分からない返事が返ってくる。

それをテキトーに聞き流した俺は、そそくさと職員室を出た。

教室の鍵を開け、自分の机を確認する。

チョコは入っていなかった。

ロッカーの中とかも見てみる。けど、どこにも入っていない。

あるのは虚無感だけ。

 

 

 

 

 

こうして波乱のバレンタインデーはあっけなく幕を閉じた。

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