飼っていた犬が行方不明になった話

かつて、俺の実家には一匹の犬がいた。スペックは以下の通り。

名前:りんこ(1998-2014

犬種:雑種

性別:メス

りんこは少し変わった犬で、決して賢いとはいえない犬だった。

尻尾がクルンと丸まっているのが特徴で、それをフリフリしながら誰彼構わず自分のケツの穴を見せつけていくのが彼女のスタイル。

愛嬌たっぷりだが、郵便配達の人が来るとギャンギャン吠えた。

かと思いきや、訪問セールスの人を大人しく迎え入れたりする。

賢くないのが分かるだろう。

りんこにはいろいろなエピソードがあるが、今日はその中でも1番思い出深い話を紹介しようと思う。

犬を飼ったことある人なら分かるかもしれないが、飼い犬というのは突然居なくなることがある。

りんこも例外ではない。繋いでいた鎖が切れてしまったのが原因で、一度だけ行方不明になった。

どこを探してもりんこの姿はない。仕方ないので保健所に「赤い首輪の犬が来たら連絡ください」とだけ電話しておいた。

電話してみたはいいものの、もう戻ってこないかもしれないと、実家の者たちは多少なりとも想像していただろう。

それから数日が過ぎ、半ば諦めの気持ちが芽生え始めていた頃、一本の電話がかかって来た。

電話の相手は保健所で、赤い首輪の犬を保護したという人から連絡があったとのことだった。

りんこは無事に生きていた。

どこで保護されているのかを教えてもらうと、割と近所であることが判明。

早速りんこを迎えにいく。

インターホンを鳴らすと優しそうなオバちゃんが出てきた。

「この度は、色々ご迷惑をおかけしまして申し訳ありません。保護していただいてありがとうございました」

「いいえ、ワンちゃん見つかって良かったですね」

そんなやりとりをひと通り交わしたあと、オバちゃんは玄関の向こうにいるりんこを連れてきてくれた。

りんこは相変わらずチャームポイントの丸まった尻尾をフリフリして、すっかりオバちゃんに懐いている様子だった。

オバちゃんはオバちゃんで、りんこに別の名前をつけていたらしく、目の前に飼い主がいるのもお構いなしでオリジナルの名前を連呼していたのが、若干デリカシーに欠けていて面白かった。

「さあ、りんちゃん帰ろうか~」

「りんちゃん」と呼んだのが図らずもオバちゃんに対抗意識を燃やしているような形になってしまったが、そんなことはどうでもいい。

いざりんこを連れて帰ろうとしたそのときである。

唖然とした。

久々の再会に嬉ションのひとつでも漏らすかと思っていたが、大間違いだった。

そこにいたのは「アンタ誰だよ」と言わんばかりに、必死に飼い主に抵抗するりんこだった。

あれだけいつも振り回している尻尾も微動だにしない。

無理やり連れて帰ろうとしても、地面に爪を押さえつけながら意地でもその場から離れようとしなかった。

何ちゅー犬じゃ。

さらに驚いたのは、りんこと呼んでも振り返りもしなかったこと。

オバちゃんに付けてもらった新しい名前にしか反応しない。

あのクンクン甲高い声で甘えてくるお前はどこに行った。

もしかしたらこれはりんこにそっくりなだけで、本当は別の犬なんじゃないか。

そんなことを思いたくなるほど、りんこの態度は予想外だった。

結局力ずくで連れ帰ったが、保護してくれたオバちゃんはその一部始終をどんな気持ちで見ていたのだろう。

飼い主の立場などまるで無かった。しかし、飼い主のメンツを立てようなどと、りんこが考えられるわけがなかった。

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